海の見える街

意味とか価値とか、そういうのがあると最高に良い

モザイク

例えば此処にいない僕のことを、誰かが覚えていてくれたら、証明は簡単に綻ぶだろう、やさしい間違いを、ことばたちは隠してしまった、君の持つ街の形を、僕はまだ知らないけれど、古い詩集を持って、浴槽に沈んでいる花弁を掬いに行くよ、
スカートが揺れる、ねえ、君は何て言った?

寝息

安寧が耳に宿ったら、これほどの多幸感。
微睡みが貴女を守っていることが、
其処に私が在ることが、
たまらなくいとおしい。
どうか健やかに、そして穏やかに。
この病熱のままで。

無題

自分をここに繋ぎ止めているのはいつだって自分ではない誰かだ。



追記 : 見よ!この世で最も醜悪で下劣なこの脅迫を!嗚呼目も当てられぬ!驚くなかれ、この者もかつては真理の深淵を覗こうと勇んだ若人であったのだ!

拝啓

拝啓

酒や煙草への憧れは、わからないから輝いていた。
香水のにおいを振り撒いていた近所のお兄さん、あなたはとても格好よかった。いつかわかると信じていたその香りの魅力を、私はついぞわかることはなさそうだけれど、あなたのにおいは今でも鼻腔をくすぐります。
私へ、今の私は君の望んでいた人間ではないのでしょうね。君は私を許さないかもしれない。でもね、今私はとてもしあわせです。とてもとても。君には想像もつかないでしょう。だいすきなひとたちと、とてもとても大事なひとに囲まれて、しあわせを離さないように必死な私のことなんて。私はそれがすこしだけうれしい。君の知らないことが今の私にあることが喜ばしい。だってそれは私が前に進んでいる証だから。
許せる日は来るよ。大丈夫。君は君を殺せない。だから安心して、思いきり希望と絶望とを繰り返してください。君の喜びも、焦りも、失望も、すべて祝福される日が来るよ。だからどうか永遠を信じることだけはやめないでください。そうすれば、君はどこへだって行けるし、何にだってなれる。誰かになりたいという憧れを、どうか捨てないで。
愛してるよ。

敬具