やさしくなんて
「死にたい」彼女は泣いた。
きっと随分前からそうやって生きてきたのだ。
「じゃあどうして泣いているの」ぼくは問う。
自分の物じゃないみたいに、声に温度はなかった。
「死は解放なんだろう? ならどうして泣く。生きるよりも、死ぬ方が楽だから人は死ぬんだ。だったら笑うべきだ」ぼくは煙草に火をつける。
最低に不味い。
「ぼくはそうやって生きてきたよ。死ねない自分を恥じながら、死にたがりになれない自己を憎悪しながら。ずっと何かを探している。
君がぼくに何を求めていたか、知らないけれど、知りたくもないけれど、一緒に死んでなんかやるものか。殺してさえあげない。
ねえ、君は本当に死にたいのかな?」
「私は……死にたい」彼女の語調は弱い。
「ならなぜ泣くのだ」言う。言う。何かがぼくにそうさせる。
「笑えよ。笑って死ね。未練なんてあっちゃいけない。そして、笑えないなら、死ねないなら、君は生きるべきだ。どれだけつらくとも、どれだけ死にたくとも、生きるべきだ」生きて、そして死ぬべきだ――ぼくは煙を吐いた。
「あなたのこと、もっとやさしいひとだと思っていた」彼女は、静かに。
「甘えるな」煙草の煙は、緩やかに上昇してゆく。