海の見える街

意味とか価値とか、そういうのがあると最高に良い

季節外れの花嫁 君は春と踊る ほどけていく間違い 機械の絨毯 何にもなれないぼくを 君は どうして救ったのかな 気が触れたら、おしまい 気が触れたら、おしまい

賽子

ひさしぶりに実家に帰ると、庭にトマトが植えられていた。「お父さんが育ててるのよ」と母が言った。ふうん、と私は。「ねえ、今度は紫陽花を植えてよ。きっときれいだよ」そう打診したけれど、返事はなかった。犬は頭がわるい。犬にかしこいだなんて、言っ…

水曜日の冷凍室には不鮮明な蓋然があって、時折どこかのクジラと共鳴しているって話、あなたは聞いたことある? よく出来た頭、¬整序されるべき i、5、7.8、3、909、えっと、それから……、そう、お隣の**さんーーーー。

雑記のような何か

男は筆を取り、先ずその過剰な自意識を以て彼の懶惰な生活を滔々と記し始めた。努めて自罰的に、デカダンを夢見て。そんな児戯のような露悪が、男の唯一の特技であった。男はこれを芸術と思いつつ、表面上は否定してみせた。「こんなものは、ただ/\、悪趣…

雪上の寿命

罪を暴かれた処女の厳密性を、一体誰が知り得ようか、漂うだけの沈丁花の人格を、全体誰が知り得ようか、一杯の粗目のような書物に、私という鉱石というにはあまりに粗悪な、それでいて高邁な一点が記述するには、おそらく清廉さが、あるいは潔浄さが足りな…

貝殻とキリン、あるいは紫陽花

この病熱のままで、揺蕩っていたい、花の名前を当ててみせて、痛いのに慣れた君の身体は、ゆっくりとほどけてしまった、かみさまのあそびを覚えたひとから消えていくんだね、鈍色の食器、本棚の木目をそっと撫でて、葉脈を想う、そういうとき、私はきっと形…

三月の化石

氷のようにきれいな読み物 ゆるやかに死んでいく花束 借り物の身体でぼくら 遊んでいるだけ かみさまのいない教会でキスを 古い詩集を持って 躍り疲れたぼくら 海の見える街で 罪を信じて 「ぼくらはずっとしあわせになる夢を見ていた」 ぼくの最期のことば…

1.618

いちばん醜いのは知識欲。次点で高潔な思想。宗教はヒトの発達段階において生じたのみに過ぎない。形而下のすべてが、ある事項によって規定されている。理性が思惟すべきあらゆる神と、存在が批准すべきあらゆる信仰を知れ。投擲された、或いは観測された唯…

プラトニックスゥイサイド

「許してあげたい」「誰を?」「僕と、それから君を」

循環

「本物になりたいんだ。彼みたいに」 「その彼も同じ事を言っていたよ」

排熱

「息をとめている」 「どうして?」 「息をとめている間は、許されている気がするから」

事項

貴女のその優しさが新しくさせた私というひとつの人格に、私はとても執着している。

モザイク

例えば此処にいない僕のことを、誰かが覚えていてくれたら、証明は簡単に綻ぶだろう、やさしい間違いを、ことばたちは隠してしまった、君の持つ街の形を、僕はまだ知らないけれど、古い詩集を持って、浴槽に沈んでいる花弁を掬いに行くよ、 スカートが揺れる…

寝息

安寧が耳に宿ったら、これほどの多幸感。 微睡みが貴女を守っていることが、 其処に私が在ることが、 たまらなくいとおしい。 どうか健やかに、そして穏やかに。 この病熱のままで。

無題

自分をここに繋ぎ止めているのはいつだって自分ではない誰かだ。 追記 : 見よ!この世で最も醜悪で下劣なこの脅迫を!嗚呼目も当てられぬ!驚くなかれ、この者もかつては真理の深淵を覗こうと勇んだ若人であったのだ!

拝啓

拝啓酒や煙草への憧れは、わからないから輝いていた。 香水のにおいを振り撒いていた近所のお兄さん、あなたはとても格好よかった。いつかわかると信じていたその香りの魅力を、私はついぞわかることはなさそうだけれど、あなたのにおいは今でも鼻腔をくすぐ…

三月の化石

「私はあの子になりたい」 三度目の春に彼女はそう言った。 「ぼくはずっと海が見ていたいな」 吐く煙は細く、淡く。油絵の勉強と称して行った植物園には、ネモフィラの花が咲いていた。 「学者なんて最低な生き物よ」 そう言って彼女は煙草を一本ねだった。…

ユリイカ、発声

自分以外の何かを嫌いになったことが一度もない、一度もないから、それがとてもこわい、知らないのってこわい、唯ひとつ嫌いなものになれたなら、君は特別になれるよ、でも君はきっと望まない、望まれた輪郭、求められた形状、そこにぼくはいるの、触れてい…

贅沢

しあわせになりたかっただけなんだよ みんなおもっていることだろう なにがだめだったんだよ

素敵なひとたちにたくさん好かれて、しあわせな少年は夢を見る、うまれた時から彼のねむりはあさい、大きな時計塔があって、取り囲むように広がる街、電線に洗濯物、ひび割れたコンクリート、廃車に住む男、駄菓子屋の電光看板、さびれた珈琲店、陶器で出来…

水族館

思想はいつだって宙に浮かんでいる、自由とは自由ではなく、沈黙とは沈黙ではない、名前を呼んで、三度だけ有機的な社会は笛を吹く、合図は英国紳士の足音、鉱物図鑑の157ページに君のパパはいるよ、走って行かなきゃきっと卵になってしまう、歌をうたう酒瓶…

日用品

写真だって文字だってみんな絵だって牧師は言った、構造主義者の殺人動機、水面で死んでいる風船、何人目までが私か、それだけを考えている、嫌いって感情を知りたかっただけ、ぜんぶから逃げたいって思ったら肺を汚せばすべて許されるから、煙草と花束はよ…

耽美派の手記

見るものぜんぶ燃えてしまえばいいって思うけど、一番燃やしたいのは自分だし、死にたいというよりは死んだほうがいいって思うけど、死んでなんかやらないとも思う。生きることが罰なんだよって戒めたあと、ただそうやって正当化をして、死にたくないだけだ…

婦人

小さな頃から、土が嫌いだったし海は怖かった、皆そうだと思っていた、クジラはすべてを見透かしていた、そうしてかみさまみたいに生きることを強いられて、全部喪うために手に入れたひとの話、何か掴んだような気がするたび、今死ねば永遠に自分のものにな…

汚濁の瞳

その者は致死量の優しさを持ち、狂おしいほど美しかった。 私が死んで、千年が経ってもその者は生きながらえているような気もしたし、つい明日には息絶えてしまうような気もした。 結局、私はきっとその者について、何も知り得なかったのだ。 その者は生来生…

枕木の代わりに死体を置きましょう。 どちらもぼくにはそう変わりはないから。 白無垢のような彼女が、ぼくは気持ち悪い。 小説の中でなら、いくらでも許してあげたのに。 それはぼくも同じかと思い直して、花を折る。 彼女は想う。 生と死の概念が反転した…

やさしくなんて

「死にたい」彼女は泣いた。 きっと随分前からそうやって生きてきたのだ。 「じゃあどうして泣いているの」ぼくは問う。 自分の物じゃないみたいに、声に温度はなかった。 「死は解放なんだろう? ならどうして泣く。生きるよりも、死ぬ方が楽だから人は死ぬ…

海と警句

朝か夜かもわからない。 海岸は静寂の縄張りだ。 ぼくは肺を汚していく。 神様の真似がしたかったんだね。 命なんて些事だと思いたくて。 海は胎動をやめてしまった。 老いた奇跡はこんなにも美しくて。 金属の匂い。 切なくて泣きそうだ。 芸術を君たちはし…

うら若き青年よ

(無機質な愛を食べてみたい)(飛びたいと死にたいは、きっとよく似てる)(剥離した性状)(欠乏した悔悟)(ねえ、君は何になりたい?)(そうやってずっと話していたかった)(燃える庭で)(さあ!)(神の葬儀を執り行おう!)(鐘が鳴り響いている)(人々は行進を始める)(…

ぼく

羨望、歪愛、憐憫、美学、憧憬、劣悪、異常、解剖、論理、希望、虚構、空洞、友愛、実験、空間、拒絶、深海、言説、理由、青色、乖離、霧散、食事、残響、同定、性欲、破壊、数式、言葉、熱量、自傷、道徳、回転、露悪、博愛、殺人、生活、感動、大気、世界…